一般的な腰痛に腹筋や背筋は効果があるのか
スポーツ競技者で腰痛を抱えてプレーをしている選手は非常に多いです。
たびたび選手からタイトルのように、「腰痛って腹筋しておけば治るんですか?」という質問をよくされます。
そもそも腰痛と一言で言っても、原因は様々で、骨、神経、筋肉、椎間板ヘルニア、悪性腫瘍、心的・社会的要因などなどざっくり分類でもたくさんあるので、一概にこれさえやっておけば大丈夫!!という意見は言えませんので、その点ご承知おきください。
今回はあくまでも、骨が折れていたり、椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症などの重大な原因がない通常の腰痛の場合、”腹筋が効果的なのかどうか” という質問に対して科学的な意見と私の意見とを述べたいと思います。
ここでの科学的な意見は、理学療法診療ガイドライン第一版(2011)から述べさせていただきます。
理学療法ガイドラインとは、科学的に検証した論文を集めて、一定の見解を出したものです。専門家の一般的な意見は関係なく、効果があるのかないのかを科学的に突き詰めたイメージです。
安静がいいの?動いた方がいいの?
まずは、安静や腰を曲げないように指導することはどうでしょうか?
1)安静(bed rest):推奨グレード D エビデンスレベル 1
急性腰痛では,積極的で持続的な活動や,普段の生活活動レベルを維持することが,仕事への復帰,慢性的な障害や再発予防に繋がり,良好な腰痛の転帰を生む。一方,ベッド 上の安静臥床は,回復を遅延させるだけで治療効果はない。
2)運動制限(limited mobility):推奨グレード D エビデンスレベル 2
非特異的な慢性腰痛に対して,早朝の腰部屈曲活動を制限するように指導することは,運動療法よりも疼痛や機能の改善に対する効果が高い。
3)活動継続推奨:グレード A エビデンスレベル 2
慢性腰痛患者の身体柔軟性は,身体運動を継続しなければ維持することができない
理学療法ガイドライン第一版 1.背部痛 第 4 章 理学療法介入の推奨グレードとエビデンスレベル 6.安静と活動 より一部抜粋
エビデンス推奨グレードDは無効性や害を示す科学的根拠がある。ということですので、要は安静では腰痛改善しませんよ。っていうことですね。
朝に腰を曲げることは腰に良くありませんというのも書いてあります。
確かに、朝は筋肉にまだ十分な血流が供給されておらず、伸張性が低下していますので、腰を曲げた際に腰の筋肉が肉離れを起こすことが多々あるのでこれは実感としてあります。
朝に腰のストレッチをする人もよく肉離れ起こしているので、朝の前屈のストレッチ、ダメ、ゼッタイです。
一方で、運動を継続することは、グレードAとなっています。グレードAは、”行うように勧められる強い科学的根拠がある” という意味ですので、慢性的に腰が痛い人は、運動を継続しないと筋肉の柔軟性が落ちますよ。と言えます。
実際に現場でも、腰痛があって動けないという人はなかなか腰痛が良くなりません。気にせず動いちゃった方が気にならなくなったという人も多いです。なるべく運動は継続したいですね。あくまで脊椎や筋肉自体に大きな問題がない人ですが。
なので、安静 or 動くに関しては、”動く”に軍配が上がりました。
腹筋や背筋の強化について
次に、腹筋や背筋についてはどうでしょうか?
筋持久力強化推奨グレード B エビデンスレベル 3
慢性腰痛に対する腰背部筋の伸展トレーニングは,疼痛,身体認知,心理的機能の改善に有効であり,特に高強度の背部筋力強化は中等度の背部筋力強化と比べ疼痛,機能障害,背部筋持久力,背部可動性,身体能力を改善し,さらに週 1 回の筋力強化を継続することで 1 年後もその効果は持続する。
また,高強度の筋力・筋持久力トレーニングは, ホームエクササイズとして実施することで疼痛と機能障害を改善させ長期効果を有するなど,高強度の筋力強化の高い有効性が示されているが,一方で,活動性や精神的負担感 の改善効果は認めないともいわれている。
また,慢性腰痛に対する肩周囲,背部,腹部の筋持久力トレーニングは,肩,腰部,股関節周囲の協調性,バランス,安定性向上を目的としたトレーニングと比べ,どちらも疼痛 や能力障害を改善し,効果に差を認めない 。
理学療法ガイドライン第一版 1.背部痛 第 4 章 理学療法介入の推奨グレードとエビデンスレベル 1.運動療法 3)筋力・筋持久力強化より一部抜粋
どんな筋トレをしたのかを詳しくみていないので、ざっくり解説になりますが、腹筋や背筋を鍛えることは、グレードB(行うように勧められる科学的根拠がある)ということのようです。結構ガシガシ鍛えても良いようです。
僕はあまり背筋をガシガシ鍛えさせたことはありません(汗)ので、少々懐疑的ですが、科学的には効果的のようです。
脊椎安定化運動いわゆる体幹トレーニングは?
最後に、いわゆる体幹トレーニングの有効性についてはどうでしょうか?
推奨グレード B エビデンスレベル 2
急性腰痛に対する脊椎安定化運動は,一般的治療と比べ長期的に効果があり,実施が高いほど疼痛や機能障害を有意に改善させる。
また,慢性腰痛に対しても脊椎安定化運動は,一般的治療や徒手療法,教育指導に比べ,短期的にも長期的にも有効性が示されている
しかし,亜急性腰痛に対しては,脊椎安定化運動の明確な効果は得られておらず,理学療法との比較においても効果に差は認められない 。
また,再発性の非特異的背部痛に対しては,一般的な運動療法の方が短期間で機能障害を改善し,脊椎の不安定性が症状に関係のない亜急性から慢性の腰痛に対しては,脊椎安定化運動は効果を示さない 。
さらに,通常の理学療法に脊椎安定化運動を併用しても更なる効果は得られない 。しかし,脊椎安定化運動と徒手療法の併用は,亜急性から慢性の腰痛患者の疼痛,健康感,機能障害, 活動性に有意な改善を認め,その長期効果が示されている。
理学療法ガイドライン第一版 1.背部痛 第 4 章 理学療法介入の推奨グレードとエビデンスレベル 1.運動療法 6)脊椎安定化運動(spinal stabilization exercises)より一部抜粋
体幹トレーニングに関しても、グレードはBなので、”行うように勧められる科学的根拠がある” ということになります。
少し解釈が難しいのですが、要は、急性腰痛にも慢性腰痛にも効果的だけど、体幹が不安なのが原因で腰痛になっているわけじゃないなら効果はないよ、そしてマッサージなどの手を使った手技とあわせるとより効果的です。ということかと思います。
体幹トレーニングが効果的なのは、体幹が安定せずに腰に負担がかかっていた人で、その効果は抜群ってことですかね。私も体幹を安定させるトレーニングは多くの人に行っていますので、実感としても効果は抜群だと思っています。
まとめ
何か重大な原因がある腰痛でない場合、
- 安静はダメ
- 筋トレOK
- 体幹トレーニングは場合によって効果あり
ということでした。
あくまで何も重大な原因がない場合なので、腰椎椎間板ヘルニアがある人が腹筋をすれば悪化しますし、腰椎分離症で骨が折れているのにガシガシ筋トレすれば増悪するので、まずはしっかりと医師などの診察を受けて大きな問題がないことを確認することは重要です。
そして、自分にあったトレーニングが知りたい方は、理学療法士などの専門家に意見を聞くのがベストだと思いますので、お近くの理学療法士の外来リハビリが受けられる病院や整形クリニックを受診していただくか、私のような外で活動しているトレーナーに聞いてみてください。